自立支援法の現実 vol.2

3月、福岡市で重度の障害のある二十七歳の娘を母がその手にかけてしまう事件が
ありました。新聞紙面上では大きな文字で「自立支援法が重荷?」と記されました。
それから3ヶ月の間に、全国で障害のある方あるいはその家庭の自殺者の数は二桁にのぼりました。心が痛むばかりです。事件の詳細については報道以上を知る由もありませんが、そこから私たちが学ばなければならないことがあります。ひとつは、今までなかった利用料の支払いに対する不安と悩みをしっかりと受け止めつづけていくことです。
 事件の家庭では、通所施設や在宅のサービスの利用に伴って発生する利用料(1割
の応益負担)をとても負担できないという不安をかかえていました。そして、利用料等を支払うことが「実際に」大変だったからではなく、支払うことになるとやっていけないという「不安」だけで、そこまで追い詰められてしまった可能性がありました。すでに4月分から利用料の支払いが発生しているいぶきでは、これから先ずっと払っていけるかしらという不安が、保護者の方々との話でもあがります。6月は祝日が一日もありません。世間で交わされる「休みがないからしんどいねえ」などという会話。でもいぶきでは少し意味が違っています。休みがない=利用日が多い=利用料がたくさん必要になるということです。そして思わず、「じゃあ今月は少し通う日数を減らそうかしら・・・」という言葉も。いぶきを利用する方は、障害程度区分がAの方で日額727円の利用料(1割の応益負担にあたります)と、昼食代550円が必要になります。6月は5月よりも2日分約2500円たくさんのお金が必要になることになります。「休めばいいんじゃない」というかもしれません。でも、それはすなわち、「大変だけど家で頑張って見よう」「心配だけど一日家に鍵をかけて残していこう」などという、仲間にとっても、家族にとっても大きな負担を伴うことになります。なにより、そういう理由でいぶきに行きたがる仲間を休ませる親さんの心中を、ここで表現しきることはできません。「じゃあ、2500円ぐらいなんとかなるでしょう・・・」なんとかなるのかもしれません。でも、なぜこの金額を支払わなければならなくなったのかを知る人は、簡単に口にできる言葉ではないのです。
 もうひとつ学びたいことは、決して社会的な孤立を生じさせないということです。事件の家庭では、その直前に施設やサービスの利用をやめてしまっていました。情報も入ってこない、相談なども気軽にできなくなった状況で、何を考えたのでしょう。「家計に関わることはどうしても話しにくくて・・・」「いろいろ事情があって・・・」と口にされる方、あるいは、触れないでほしいと態度で示される方、それぞれが苦しそうです。それでもいざというときや、ちょっとしたおしゃべりのついでに、今悩んでいることを口にする関係をつないでおくことで救われることがきっとでてきます。「○○さん、毎日来てほしいね。でもそれが苦痛でいぶきをやめますといわれるぐらいなら、つながっていられるように、週に何日かでもいいからずっと来てくれる方がいいね」そんな話を職員と重ねる日々です。
 最後に、どうしても、仲間や親さんたちの思いを書くと、客観的に表現せざるをえないことに、書きながらジレンマを感じざるをえません。ですが、仲間もいぶきもみんなが当事者として思いを共にしていくことはこれからもかわらないことを添えます。