対話するいぶき、対話する社会をめざして



月刊福祉 2021年4月号に掲載したものを編集

はじめに

いぶき福祉会は1995年に認可された。岐阜市内で15事業所を展開し、生活介護を中心とした日中活動の利用者は171名、ホームで48名が暮らしている。

27年前、障害のある方と保護者数名から始まった施設づくり。法人設立の自己資金づくりで、7000名を超える市民の方から7000万円の寄付をいただき、そこから発足した「いぶき福祉会後援会(いぶきファミリーと改称)」の会員は現在1000名を超え、会費やボランティアで法人を支えている。その後も、1999年に4000万円、2003年に1000万円、2011年に6500万円、2019年に2500万円と合計5回にわたる大規模な施設整備のたびに寄せられた寄付は2万名以上から総額2億円を超える。「資金を集める」という表現は少しおこがましいかもしれない。私たちがどのように学び、つながり、何かを作ってきたのか。 その歩みを「寄付」に焦点を当てて振り返る。(図1)

1.強みをいかし、願いをかなえる

法人開設当初の願いは、どんな障害の重い人でも働くことができる場づくり。まだネット環境もない時代。街頭や集会、電話や手紙でひたすら訴え続ける活動の中心は、保護者と教員だった。その成果は重度重複障害の方の「働く」を支える手厚い職員体制につながった。

そんな中に訪れた大きな転機が障害者自立支援法の施行である。措置から契約へ。運営から経営へと、障害福祉の根底が大きく変わる中、2006年に今後の法人を支える循環のイメージを描いたのが図2である。第1段階として、法人の体力をつけることを目標にすえた。具体的には①利用者の工賃アップと②支援者ネットワークを拡充。第2段階として、人材と財源の確保が難しい支援への取り組み、すなわち③医療的ケアの必要な方の社会参加、④障害の重い人の親なき後の暮らしの場づくり。「働く場」と「後援会の存在」はいぶきの強み。そして、どんな重い障害のある人も安心して社会の一員として暮らせるようにという、設立以来の願い。強みを活かして、願いをかなえる。実践、広報、コミュニティ、運動などを連動させるこの構想も、15年前は絵空事だと笑われたものだった。それでも、その後10年計画でこの課題を進めていった。

2.Happy-Happy Partnership Map

第1段階の工賃アップの取り組みは、新商品開発やブランディング、アンテナショップ、企業とのコラボなども順調に進んだ。岐阜県の企業支援や地域活性策を活用し、福祉を越えたモノづくりのネットワークが広がり、そこでの学びが、その後のいぶきを大きく変えることになる。それは、「してあげるーしてもらう」という関係からの卒業。内なる壁を乗り越えて、地域の担い手になっていく契機となった。

そして、第2段階とした願いも形になっていく。2011年にショートステイ併設の「パストラルいぶき」が始まる。リーマンショック直後にもかかわらず、建設にあたって半年あまりで5000名から6500万円もの寄付が寄せられた。

ただ、それは高齢化する保護者を中心に、力を振り絞って集めたもので、モノづくり(ビジネス)と障害のある人の居場所づくりを連動させることは、簡単なことではなかった。

それでも、2006年に描いた構想も、ひとつの節目を迎えた。

「IBUKI Happy-Happy Partnership Map」と題したマップ(図3)では、3層からなる法人の役割が左下に、そこからひろがる地域のいたるところで、人のつながりから生まれたモノやコトが描かれている。その背景に、地のように見える網の目があり、どこにもつながっていない点(=人)がいなくなることが私たちの願いである。このマップが描けるようになるには、大きな方向転換の気づきが必要だった。

3.対話と創造の場づくりへの転換

2019年ふたたび大きな事業が始まる。利用者と家族の高齢化や災害など、「いざという時でも、誰もが安心と希望を持って暮らせる寛容な社会に」という願いを込めた、グループホーム・ショートステイ・防災拠点を併設した「パストラルいぶき第2期プロジェクト」である。総事業費1億6000万円。2000万円の自己資金を新たに確保する必要があった。これまでの経験からすれば難しくないと思われるかもしれない。しかし、8年のブランクは大きかった。

過去4回の大きな取り組みとの違いを列挙してみる。

社会:貧困、災害、海外など社会課題が多様化。大変なのは障害者だけではない時代。

主体者:保護者の多くが現役を引退。職員の労働環境や意識も変わり、意義を語るだけでは行動にはつながらない。

支援者:法人設立当初からのコアな支援者の高齢化と8年の空白。

ツール:アナログからデジタルへ。メールやLINEなどのSNSで伝えられるようになった。

要するに、過去と同じことは通用しない。見出した方針は、徹底した「仲間づくり」だった。

「『対話するいぶき、対話する社会』をテーマに、15年後を見据えた若い世代のつながりをつくろう。目標は金額ではなくつながる人の数。2000万円ではなく2000名。ノルマはない。できることをできる人が持ち寄ろう」と。

そんなことで寄付は集まるのか?と揶揄する声もあった。それでも従来型の方式でみんなの気持ちが離れてしまうことよりも、未来を作るきっかけにすることを選択した。

小さな対話の場を重ねることだけを心がけ、多様な活動が始まった。初めてのクラウドファンディング(以下CF)にも取り組んだ(注1)。最初は、オンラインで寄付を集められる便利な仕組みだと思っていたが、その営みはコミュニティづくりそのものであった。拡散しようとスマホに慣れない保護者向けのLINE学習会も開催すると、どんどんジブンゴトになって、ためらいがちだった人たちが目を輝かせるようになっていった。

「支援」から「参加」へ。「頑張ろう」から「楽しもう」という関係を作るということ。これは過去の募金活動では生まれなかった新しい関係だった。そして、その基盤となったのが、マップでつながる人たちだった。福祉の立場から切実に助けてほしいとお願いしていた頃には、つながることがなかったビジネスと福祉の2足のわらじ。新しい対話と創造の場を共有することで、やっと「間」を越えた活動になった。

最終的にこのプロジェクトでは1,935名の「参加」と2,473万円の寄付があった。うちCFでは、644名で632万円。活動の様子は、法人の年次報告書やブログ(注2)にまとめが掲載されている。「不安でしかなかった寄付集めは、とても楽しい思い出になりました」、そんな職員のことばにもつながったのかもしれない。

4.セールスからマーケティングへ

パストラルいぶき第2期プロジェクトでの気づきは、法人の幅広い活動を一気に紐づけていくことになった。

2020年6月からは、事業所の前庭に地域の方と一緒に花壇をつくる「いぶきコミュニティガーデン」ワークショップを開始。コープ共済の継続的な助成もあり、みんなの縁側づくりは今も続いている。同年7月には、コロナ禍で売り上げが落ち込んだ看板商品「かりんとう」を応援するCF(注3)を立ち上げた。目標は300名250万円。買い切りではなく、8ヶ月間毎月お届けするものとなっている。12月には、参加者限定でかりんとう工房オンライン見学会を開催。利用者との会話も大好評で、3月に続編を予定している。

10〜12月に岐阜市と連携して取り組んだ、ガバメントCF(注4)では、182名から330万円の支援があった。これを財源に、社会貢献を考える地域の企業等が商品やサービスを提供し、その売り上げの一部が社会課題を解決する団体への寄付となる「寄付つき商品」を展開する「ぎふハッピーハッピープロジェクト(図4、注5)」が始まっている。

そして2021年4月、両輪として歩んできた後援会組織が発展解消され、法人会員に移行する。これによって3年後には会費を税制優遇対象とし、さらに寄付の窓口を開いていくことになる。

かりんとう応援プロジェクトの続編となる大規模なCFの準備も進み、さらに5月には、コロナ禍で30年の歴史が中断した「いぶきまつり」に代わるチャリティ・ウォークを予定。これもまた多くの団体との協働の始まりとなるに違いない。

これは法人全体の財政的活動のセールスからマーケティングへの全面移行を意味している。セールスとは一方向的なもの。マーケティングとは、多様な人たちが集い、多様な役割を担い合う双方向なコミュニティを育むこと。

これからも、多面的な営みがすべて網の目のようにつながり、そこでの対話を通じて、より一層の新しい価値を生みだしていきたいと思っている。

【注:参考URL】

注1 パストラルいぶき第2期プロジェクト(CF)

https://readyfor.jp/projects/ibukiyumehiro2020

注2 同(ブログ)

https://note.com/ibuki2020/m/m653a4c9f194e

注3 かりんとう応援プロジェクト(CF)

https://camp-fire.jp/projects/view/301654

注4 ふるさとチョイス「GIFU HAPPY-HAPPY PROJECT」(ガバメントCF)

https://www.furusato-tax.jp/gcf/1039

注5 ぎふハッピーハッピープロジェクト

https//www.hhp-gifu.com